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サッカーの天才は考えていない。 「直感」を磨く認知の研究

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文 鈴木達朗

現代サッカーにおいて「トレーニング」と言えば、ボールスキルなど実行の部分や体を実際に動かすことのみを指すわけではない。ホッフェンハイム監督のユリアン・ナーゲルスマンやRBグループのキーマンであるヘルムート・グロース(ストラテジーアドバイザー)らは、「認知」という要素にまだまだ大きな可能性を残していると断言する。また、実際にピッチ上のトレーニングや試合においても、単純な身体的負荷のみならず、この認知や感情といった部分まで考慮することが求められる。ここでは、ドイツの分析サイト『Spielverlagerung.de』のレネ・マリッチとマルコ・ヘンゼリンクが出版した著書の内容を中心に、そのメカニズムの概要を見ていこう。

■戦術的アクションの6つのフェーズ

まず、そもそも戦術的アクションが行われるプロセスとは? 2人は、ドイツの教員向けの本を引用しながら6つのフェーズがあるとしている。

①認知A(状況の認識)→②情報処理A(認識した情報の分析)→③情報処理B(状況の解決を予測してのアクションのプランを用意)→④決定(用意したプランの中から最も状況に適した身体行為を使った解決方法を選択)→⑤実行(解決に向けて体を実際に使ったプレー)→⑥認知B(そのプレーを行った結果を反省する)→①に戻る。

サッカーの試合では、この6つのフェーズが90分間、絶え間なく常に行われ続けていることになる。「ポジショナルプレー」という用語もあるように、サッカーでは実際のところボールの保持(攻撃)・不保持(守備)にかかわらず90分にわたって適切なポジションを適切な状態で取り続けなければならず、ボールが来たらそれを適切に扱い、次の状況が自分たちにとって優位になるように動かすものだ。この観点から見れば、ボールを扱う作業は動作の一つに過ぎず、ボールを持たない時の動作と等価に見ることができる。ポジショナルプレーという用語は、適切なポジショニング自体が一つの「プレー」であると認識させる点でも意味があるだろう。これは守備においても同様である。

ナーゲルスマンやグロースが認知に大きな可能性を見ているのも、この戦術的アクションのフェーズにおいて身体に関わる部分は「実行」の1フェーズのみなのに対して、認知に関わる部分が5フェーズもあるからだろう。集める情報の量と質を上げ、情報処理の速度と精度を高め、精度の高い選択を行い、実行後はその結果を自分自身にフィードバックし、情報として蓄積する。サッカー(および球技全般)では、実際に体を動かすのは当然だが、同時にこの5フェーズをいかに効率良く向上させるのかが鍵を握る。

■経験則と「快」「不快」の感情と直感

ここで、一つの例としてシャビ・エルナンデスを挙げてみよう。日本でも2014年の『NHKスペシャル』で彼の脳を調べた研究が紹介されていた。日本人のサッカー選手がプレーする際、脳の前頭前野が活動し、文字通り「考えて(思考して)」プレーしているのに対して、シャビの場合は大脳基底核が活動している。この部位は「直感」が働く際に活動する場所である。シャビはサンプルとなった日本人選手の平均に比べて、空間認識を司る脳の部分(頭頂葉)が圧倒的に発達しており、先の6つのフェーズを通して獲得した膨大なサンプル(映像化された経験)の中から(無意識のうちに)直感に従って適切なものを選び出している、という仮説が立てられる。

おそらく、この仮説は正しい。というのも、心理学を専攻したマリッチも著書の中で、心理学用語の「ヒューリスティック(経験則)」という言葉を用いながら「直感というものは、現在置かれた状況が過去の出来事と似ている場合に作用する。直感は、無意識の領域に蓄積された知識や経験に基づいており、この知識や経験の蓄積が多ければ多いほど、より素早く、より容易に効果的な直感に基づいた決定を下すことができる」と述べている。とはいえ、この知識や経験やその選択には各個人間に差(認知バイアス)があり、常に正しい決定が下されるとは限らない。

現在、欧州では10代の選手が主力としてプレーしているクラブも少なくない。これは、間違いなく育成年代のトレーニングが年々洗練されてきていることの恩恵だ。小学生の頃から正しい理解に基づいたトレーニングやフィードバックを行うことによって、すでに10代後半でもトップレベルで通用するほどの直感が身についている。つまり、経験則の基となる膨大な知識や経験が無意識データとして十分なほどに蓄積されているのだ。

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