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中国人留学生は国外でも共産党の監視体制に怯えている

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ニューズウィーク日本版

ひそかに始まった「反・習近平」運動が世界各地のキャンパスに拡散したが

カリフォルニア大学サンディエゴ校の学生ラウンジの掲示板に貼ったビラを、私は最後にもう一度確認した。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席の顔写真の上に、赤い文字で「ノット・マイ・プレジデント(私の国家主席ではない)」と書いたものだ。

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既に夜も更けていたが、私は誰にも見られないようパーカーのフードをかぶって顔を隠していた。中国本土出身の私は、異国の地にいても当局の抑圧から逃れられないからだ。

中国共産党は国境を越えて監視と圧力を続けるすべを熟知している。欧米に暮らしていても、政府に逆らう行動は自分自身と祖国にいる家族の身を危険にさらすことを意味する。

この数日前の2月25日、中国共産党中央委員会は国家主席の任期を「2期10年まで」とする憲法条文を削除する憲法改正案を提案した。3月11日、改正案は全国人民代表大会で採択され、2期目が満了する2023年以降も習が権力を持ち続ける基盤が整った。

憲法改正のニュースは中国のソーシャルメディアを騒がせ、いら立ちや衝撃、無力感を訴える書き込みがネット上にあふれた。だが、それもわずか数時間のこと。当局の検閲によって、そうした書き込みは一斉に削除された。

だから、私は友人と2人で行動を起こすことにした。欧米に留学中の私たちは、習が人権活動家を弾圧し、香港の民主化運動を骨抜きにし、毛沢東時代を想起させる個人崇拝を復活させる様子を幻滅しながら見守ってきた。だが今こそ、祖国で沈黙する同胞に代わって、国外に住む私たちが声を上げるべきときだ。

<身元がばれたら就職できない>

私たちはツイッターで「ノット・マイ・プレジデント」のアカウントを作り、世界各地の大学で学ぶ中国人学生にビラを印刷してキャンパスに貼るよう呼び掛けた。1カ月ほどでコーネル大学やロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、シドニー大学、香港大学など30以上の大学の学生が運動に加わり、国家元首の「終身制」に反対を表明。こうした活動は複数の欧米メディアにも取り上げられている。

ただし、声を上げる際には細心の注意が必要だ。大学構内にビラを貼る行為は民主主義国家では当たり前の政治活動だが、中国人学生にとっては危険を伴う。中国共産党を公に批判したことが露見すれば、帰国後のキャリア形成に多大な影響が生じ、就職や昇進の道は閉ざされるだろう。

中国当局は国外で政治的発言をする学生の家族に嫌がらせをしたり、帰国者を取り調べたりすることでも知られている。外国で身柄を拘束して無理やり帰国させることさえある。

そこで私たちは注意深く、段階を追って活動を広げていった。まず安全なコミュニケーションの手段を構築。中国語話者の間で最もよく使われている携帯チャットアプリの微信(WeChat)は、中国当局に監視されているため使用しないことにした。

当局の監視体制が一段と強まっている

フェイスブックのような欧米系企業のサービスを使う場合も、ユーザーの情報が中国当局に渡されるリスクに備えてプリペイド式携帯電話でログインする。実際、アップルは2月、中国人ユーザーのiCloudアカウントの運用を中国のデータセンターに移行させることに同意した。

身元がばれたら、恐ろしい事態が待ち受けているかもしれない。中国では、国家指導者の正当性に疑問を呈する活動を組織することは違法とされている。そうした市民を逮捕・起訴する当局の権限は、遠く離れた国外にいる私たちにも及ぶ。

<過去の不幸な事件に学ぶこと>

活動を広げていくに当たり私たちは賛同者に、ビラを貼る際にはマスクをするなどして身元を隠すことを勧めている。過去の経験から、国外の中国人コミュニティーは中国政府に批判的な人物の言動を支持しないことが予想されるためだ。それどころか、中国政府に告げ口をする「番犬」の役割を担う学生グループもある。

昨年5月、メリーランド大学の卒業式で留学生の楊舒平(ヤン・シューピン)は中国の環境問題を批判し、民主的な価値観を称賛するスピーチをした。このときの様子を捉えた動画がネットに流出すると、批判が殺到。中国の国営メディアは楊のスピーチを「反中国」と呼び、怒りに燃えた人々が彼女の両親の住所をネット上に公開した。

しかし一連の騒動の間、在米中国人学生・研究者連合会が楊をサポートする気配は見られなかった。彼らは楊のスピーチを「許容し難い」と非難。結局、楊はソーシャルメディア上で謝罪に追い込まれた。

私たちの活動への賛同者が増えるにつれて、ツイッターアカウントへの注目度も高まっていった。ただし、私たちは中国本土の学生には参加を控えるよう呼び掛けている。人工知能(AI)とディープラーニングの発展によって、当局による監視体制が一段と強まっているためだ。

激しいフィッシング攻撃にもさらされている。ツイッターやフェイスブック、Gメールはもちろん、ビラの画像をダウンロードするためのドロップボックスのアカウントについても、連日のようにパスワード変更要求メールが届いた。

一方で、支援の輪も想像しなかったほど広がっている。カリフォルニア大学アーバイン校で学んでいるある賛同者からは、こんな感動的なメッセージが届いた。

「ビラを貼ろうかどうか、しばらくの間悩んでいた。私の行動に賛同しない人に見つかることが心配だったから。でも、マーチン・ルーサー・キングは『問題になっていることについて沈黙した日に、私たちの命は終わりに向かい始める』と語っていた。習の行いは絶対に間違っており、人々はあまりに長い間沈黙している。だからリスクを取ることに決めた。私の行動によって変化が生まれ、事態が好転するよう祈っている」

冷え込む春の夜に私たちが大学の掲示板にビラを貼った行為は、ささやかな抵抗であり、正しいと信じて育った共産党のイデオロギーと個人的に決別した瞬間だった。だが、一歩を踏み出したのは私たちだけではない。

From Foreign Policy Magazine

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