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"実質0円端末"が禁止になった本当の理由

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"実質0円端末"が禁止になった本当の理由


携帯電話の料金を「高い」と感じる人は多い。家計支出に占める通信費の割合はこの10年で2割も上昇しているという。これを受けて2015年には安倍晋三首相が異例の「料金値下げ」の指示を出した。しかしその議論はいつの間にか“実質0円端末”の販売を禁止するという話にすり替わってしまった。コンサルタントの吉川尚宏氏は、携帯電話料金を下げる方法について、「MNO(周波数免許を持つ携帯電話会社)を増やすしかない」と指摘する――。(前編、全2回)

■総理大臣が前代未聞の「携帯電話料金の値下げ」指示

2015年9月11日に開かれた経済財政諮問会議で、安倍晋三総理が「携帯電話料金の家計負担軽減が大きな課題」だとして、高市早苗総務大臣(当時)に対して料金引き下げの検討を指示した。

通信を所管する総務大臣ではなく、総理大臣自身が携帯電話の料金水準について言及するというのは異例のことであるし、自由化されているサービスの料金水準の高さに言及するのも異例のことである。

実は同日の経済財政諮問会議で、4人の民間議員が共同で提出した資料「経済の好循環の拡大・深化に向けたアジェンダ」の中で、家計支出に占める通信費の割合はこの10年で2割上昇したと指摘した。それが総理大臣自ら行った「指示」の背景となっている。

■日本は携帯電話料金の選択肢が少ない

ただし、「高い」携帯電話料金は日本に限った話ではない。

総務省が2017年7月に発表した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」によれば、スマートフォンを利用して5GBのデータ通信を利用する場合、各国主要都市の料金は東京が3760円、ニューヨークが6187円、ロンドンが2505円、パリが2554円、デュッセルドルフが3937円、ソウルが4640円となっている。

東京の料金は、世界6都市では上から4番目。決して高いわけではないことがわかる。

ただし、このデータは気を付けて扱う必要がある。なぜなら、対象としている料金は各国の主要な携帯電話会社の代表的な料金プランだが、それとは別に、欧米には多様な料金プランが存在しているからだ。

その代表的な例が先払い、つまりプリペイド型の通信料金である。プリペイド型を用いることで、通信料金の家計負担をコントロールしやすくなる。

他方、日本ではプリペイド方式はあまり広まっていない。かつて普及しかけたときに、携帯電話を用いた犯罪防止のために本人確認義務が厳しくなり、結果として後払いのほうが一般的となっている。

プリペイド型を含めて、多様な料金プランが準備されていることが、結果として消費者に割安感をもたらす。反対に、日本では安い料金を選びたいような消費者に対する選択肢が少ない。それこそが「携帯電話料金が高い」という印象を生み出していると著者は考えている。

■なぜ「携帯電話料金値下げ」の指示が「0円端末禁止」になったのか

では総理大臣の指示を受けて、携帯電話料金はその後、どうなったか?

結論として、「携帯電話料金値下げ」指示は「0円端末の販売禁止」へとすりかわっていってしまった。

詳しく説明すると、NTTドコモ、KDDI(出資先の沖縄セルラーを含む)、ソフトバンクといったMNO(Mobile Network Operator)と呼ばれる携帯電話会社は、新しく契約し直したり、機種変更を行う消費者に対して「端末補助金」と呼ばれるサポートを用意し、事実上0円で端末を提供したり、キャッシュバックを提供したりしてきた。

他方、携帯電話会社を切り替えたり、機種を頻繁に変更したりしない消費者にとってはそうした補助金やキャッシュバックによるメリットは受けられない。

総理大臣の指示を受けて総務省で始まった携帯電話料金の高さに関する議論は、いつしか論点が微妙に変わっていき「ここでの不公平を是正しよう」という話に切り替わっていったのである。

「消費者のため」という名目を掲げている以上、その政策も一面では正しいように見える。しかし今回の場合、料金の低廉化と論理的につながっていない。

0円端末を禁止すれば、確かに携帯電話会社は「端末補助金」を減らすことができる。ただ、「端末補助金」が減ったことによって余った原資を、それぞれの会社が料金値下げにそのまま使うかどうかは全く別の問題である。

■国が価格政策に関与すべきなのか

携帯電話会社のインセンティブとは利益の最大化で、消費者への還元の最大化ではない。現にこの0円端末禁止が導入された後の2016年度において、各携帯電話会社は2015年度よりも利益を増やしている。

そして0円端末の禁止はそもそも端末の流通過程を考えると、奇妙な政策である。すなわち、独占禁止法でいうところの「再販売価格の拘束」に該当する懸念があるからだ。

携帯電話端末はメーカーから携帯電話会社、そして販売代理店へと流通していき、端末価格の決定権は販売代理店にある。だからこそ、0円端末を禁止することは販売代理店の価格設定の自由度を奪うことになる。もし携帯電話会社側が強制すれば、販売代理店に対する再販売価格の拘束となってしまうのである。

消費者にとって料金が安いに越したことはない。しかし、それはそもそも市場の競争の中で決まるものであって、国が直接、価格政策に関与して決まるようなものではない。

もし法的根拠もなく「総理大臣の要請を受けたから」という理由で、本当に携帯電話各社が値下げを行えば、携帯電話会社の経営陣は株主代表訴訟を受けかねないだろう。

■「MVNO対MNO」に意味はない

携帯電話市場には、先述したMNOと呼ばれる周波数免許を保有する携帯電話会社と、MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)と呼ばれる、MNOから周波数帯域や回線を借り受けて再販する携帯電話会社の2種類が存在する。

現在の日本にはMNOとしてNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの三社しか存在せず、実質的な寡占市場となっていて、これが料金の高さの原因になっている。

MNOに参入するためには基地局インフラの整備、店舗網の整備等、多額の初期投資が必要になるため、その障壁は高い。そこでこれまで総務省はMVNOの普及を促し、MNOとMVNOとの間に競争関係を生み出そうとしてきた。

しかし、これは「筋のいい」政策とは言えない。

なぜならば、MNOとMVNOとの関係とは、JALのような航空会社とJTBのような旅行会社との関係のようなもの。似たようで、決して同じ業態ではないからだ。

■MNOとMVNOは共存関係

航空会社は空港の発着枠の許可を受け、航空機等の機材に投資し、旅客サービスを運営している。その航空会社から座席を調達し、宿泊施設や各種のイベントとパッケージすることで、旅行サービスを販売するのが旅行会社だ。

それと同様、周波数免許を取得し、基地局やバックボーンの通信回線等のインフラに投資し、携帯電話サービスを提供するのがMNOである。そしてMNOから周波数帯域や回線を借り受けて、そこにソリューションやコンテンツ等の付加価値をつけ、パッケージ化してサービスを提供するのが、本来のMVNOの役割である。

つまりMNOはJALに、MVNOはJTBに近い。そもそもMNOとMVNOは共存関係にあるのだ。

■「携帯電話料金」を下げるにはMNOの数を増やすしかない

ではもしMNOとMVNOを競争させると何が起きるのだろうか?

MVNOの原価構造とは、MNOから借り受ける周波数帯域や回線に伴うコストが大宗を占める。だからこそ、単純な回線サービスであれば利幅は薄い。それでいてMNOと同様なサービスを提供しようとすれば、店舗網の整備費用や販売費用などがかさむ。それに加えてもともとの体力格差もあるから、MVNOがMNOと同じ土俵で戦っても絶対に勝てない。

そうした事業構造を持つMVNOを、総務省が普及させようとした結果、確かに社数は886まで増加した(2018年3月時点)。しかしそのほとんどの体力は極めて脆弱で、業界の再編は避けられない状況と言ったほうが正しい。

現在のMNOからすると、自社でカバーしきれない市場セグメントをカバーしてくれるのがMVNOである。そうした市場で加入者を獲得してくれるMVNOに対し、ボリュームディスカウントといった形を取って、卸価格を優遇しても構わないはずだ。

ところが現在、特定のMVNOを優遇することができないという規制が敷かれている。ここでは政府によって、ダイナミックなプライシングが実質的に禁じられており、価格統制が行われているのである。

■料金を下げるにはMNOの新規参入が必要

JALやANAの競争相手を増やすために必要なのは旅行会社を増やすことではない。航空会社を増やすことである。それが現実化したのがLCC(Low Cost Carrier)である。

彼らは実際に新規の航空会社として空港の発着枠を獲得し、機材にも投資している。つまりMNOなのである。

今の日本には格安スマホを提供する事業者が多く出てきている。しかし彼らは所詮MVNOであり、航空業界でいうところのLCCではない。

著書『「価格」を疑え』(中公新書ラクレ)に詳しく記したが、結局、携帯電話業界の競争を活性化して、その料金を引き下げるためには、MVNOではなく、MNOの新規参入が必要である。それは間違いない。

現在、4社目のMNOとして楽天の参入が正式に決まり、19年10月からのサービス開始を目指している。ビジネスそのものが上手くいくかは分からない。ただしその成否が、私たちが「高い」と感じている携帯電話料金の行く末を左右する可能性が高い、ということは間違いなさそうだ。

次回、その“楽天携帯”の可能性についてより深く検討をしてみたい。

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吉川 尚宏(よしかわ・なおひろ)
コンサルタント
1963年、滋賀県生まれ。A.T.カーニー・パートナー。京都大学工学部卒、京都大学大学院工学研究科修士課程修了、ジョージタウン大学大学院IEMBAプログラム修了(MBA)。野村総合研究所などを経て現職。専門分野は情報通信分野の産業分析、事業戦略、オペレーション戦略など。総務省情報通信審議会のほか、周波数オークションに関する懇談会等の構成員として政策提言を行う。著書に『ガラパゴス化する日本』(講談社現代新書)、『「価格」を疑え』(中公新書ラクレ)など。

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(コンサルタント 吉川 尚宏 写真=iStock.com)

 

引用元:livedoor NEWS

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