心にひっかかった世の中のニュースをお届け。

書ききれないこと

経済

「引きこもり」にやさしい喫茶店が地域共生の中心地になった理由

更新日:

引きこもる人々を外の世界と交流させることは難しい。しかし、ある引きこもり経験者の家族たちが、経営する喫茶店内に「居場所」を開いたところ、予想外の大盛況となった

「引きこもり」の居場所に
集まった意外な人々の素顔

街の喫茶店を経営する引きこもり経験者の家族が、別の引きこもり経験者と看護師の3人で会を立ち上げ、喫茶店内に「居場所」を開いたところ、当事者や支援者に混じって地域の高齢者たちも参加するなど、店から溢れる人が出るほどの盛況ぶりとなった。

意図していたわけではないものの、国の目指している“地域共生社会”を具現化してしまったような交流の場で、喫茶店に生まれた“引きこもりプラットホーム”だったとも言える。

店の中に居場所を開いたのは、横浜市瀬谷区で喫茶「バス通り」を夫婦で運営している青木貴子さん(50代)。3人で立ち上げた会の名前は「ゆるり瀬谷」で、「他の参加者を批判しない」「あらゆる勧誘を禁止する」などのルールを設けた「ふらっとカフェ」としてお茶などを用意し、2月10日に「第1回ゆるり会」という居場所を開いたところ、想定していた「15人以内」をはるかに超える40人余りの人が参加したという。

横浜市では、2018年11月以降、同居していた高齢の親が亡くなった後、残された子が周囲に知らせることができずに死体遺棄容疑で逮捕される事件が4件も続発している。その多くは、親の介護のために離職していたり、仕事に就けずに引きこもり状態だったりして、家族全体が支援につながれないまま孤立していた事例だ。

同年11月5日に逮捕された同市の団地に住む50歳の長男は、2人暮らしをしていた当時76歳の母親の遺体を1ヵ月放置したとして逮捕されたが、約40年にわたる「ひきこもり状態」にあって人と話すことができず、取り調べも筆談でやりとりするほどだった。この家庭では、母親が生前、行政に相談し、たらい回し状態の末に支援につながったものの、結果的に途絶してしまって助けることができなかった。

引きこもらざるを得ない状態にある、あるいはそのグレーゾーンに位置する層の人たちは、「就労目的の支援がなじまない」「障害ではない」という特性の人が多く、周囲の住民の理解や寛容さ、受け皿づくりを進めていこうとする地域の側の意識の変化が、相談につながるためのカギを握っていると言える。

青木さんが会を立ち上げたきっかけは、引きこもって苦しんできた家族を見て、従来の「ひきこもり就労支援」に疑問を感じたことだった。

「社会に出て心の傷を負ったり、生きづらさを感じて引きこもったり、精神を病んで障害者に認定されたりしている人たちに、もう一度原因をつくった社会に逆戻りさせて“就労しなさい”というのはヘンな支援だなと、ずっと感じていたのです。なぜこの人たちに意向を聞いて、できるものを提供しないのかなって」

いくら誘っても人前に出なかった
人々が普通に参加する会合に感動

青木さんの家族も、職場の人間関係が原因で自宅に引きこもった。周囲の家族がSOSを発信しても、医師は自宅に来てくれず、役所も対応してくれなかったという。

その後、このことがきっかけで障害者と触れうようになり、「ピア活動」の存在を知った。「ひきこもり」と「ピア」をネット検索して出てきたのが、横浜市内で活動する「ひきこもり当事者グループ“「ひき桜」 in 横浜”」だった。

「どなたでもどうぞ」というホームページを見て、青木さんは、定例会に出かけてみた。そこでは「今まで見たこともない」会が開かれていた。

青木さんは驚いて、「ここにいる人たちは全員、ひきこもりさんなんですか?」と尋ねてみると、「はい、そうです」と言われた。

「行政も支援職も成し得なかったことが、ここではできている。いくら“来なさい”と呼んでも、親が“行きなさい”と言っても、外に出てこない人たちがここにいる。居場所や当事者会というピアの世界のパワーや可能性は、これから絶対に必要になると感じ、惚れ込んだんです」

青木さんは、自分の地域にもこのような居場所をつくり出せれば、孤立して苦しんでいる本人や家族が来てくれるのではないかと考えた。ただ、そのときは「あれば、いいな」と思っただけで、まさか自分がやるとは思っていなかった。

「結局、誰もやる人がいないと、何も始まらない。“あるといいよね”って話をしていたら、ケアプラザ(地域包括支援センター)の方から声をかけられたんです」

「ひき桜」代表の割田大悟さんにも声をかけ、一緒に会の運営を手伝ってもらうことになった。

当日の店内では、おしゃべりしたいスペースと話したくないスペースに分けた。話したくないスペースには、「ひきポス」などの当事者メディア、書籍、漫画、トランプ、オセロゲームなどを喫茶店ぽい雰囲気で置き、飲み物と食べ物を準備した。一方、おしゃべりたいスペースには、ケアプラザの職員、地域のコーディネーター、看護師などが入った。

「何も打ち合わせをしてなかったのですが、職員たちは自然の流れで傾聴役に回ってくれました。しゃべりたい席には、地域のお年寄りたちが座っていたので、引きこもり当事者の方の中にも傾聴役をしてくださる方がいて、誰が当事者なのかわからない状態でした」(青木さん)

終了予定を1時間以上オーバー
過度に注目されない居心地のよさ

しかし、参加者たちはほとんど帰ろうとせず、会は終了予定を1時間以上オーバーするまで続いたという。

「これから先、何かできることがあるわけではないけど、会を開いて気がついたのは、多くの人に混ざっていても、自分に過度な注目が来ないほうが居心地がいいのかなって」(青木さん)

主催者が描いていた「ゆるり」ではなかったかもしれないが、当事者たちを真ん中に緩やかな関係の賑わいをつくり出す、カオス的な居場所だったようだ。

3人は同じテーブルについて、顔を合わせたことがない。会を立ち上げるにあたっても、「引きこもった状態でも、しっかり運営に携わっていただける、そんな実績もつくりたい」(青木さん)からと、フェイスブックなどのSNSをフル活用した。

「ゆるり」する気持ちを
日常的につくり出す喫茶店

「ゆるりする気持ちって、日常の生活の中ではなかなかつくり出せないじゃないですか。でも、喫茶店はゆるりとできる。うちの店なら、そのゆるり感が出せるのではと思いました。ゆるり会でも、本当はカウンターではいつものお客さんに来てもらおうと思ってたんです。居場所に行ったというよりも、喫茶店でお茶を飲んだという雰囲気を味わってもらいたかったのですが……」

第2回「ゆるり会」は、3月23日午後1時から開かれる。参加費は、お茶、菓子付きで100円だが、通常の店のメニューの注文もできる。

ダイヤモンドオンラインから

-経済

Copyright© 書ききれないこと , 2019 All Rights Reserved.